日指会の友【65】

目まぐるしく変わる世の中に、我々指圧師の環境も一昔前と比べますと大きく様変わりしました。これは臨床の治療師の皆さんは痛感している事と思います。

さて、今回久々に、こちらテキストを書きますのも、日指会本の原稿まとめに四苦八苦しておりまして、自分の脳内の整理も兼ねて指圧界隈の近頃をアレコレをメモしておこうと、そう云う訳であります。あ、いつもの通り我々業者向けです。




カイロや整体は「低価格ほぐし」ブーム並に急増する?
下の次のテキストに少し雑ですがまとめた通り、これから整骨・接骨院での治療への保険適用が来年度より厳しくなる流れです。整骨・接骨院は「柔道整復師」と言う国家資格で、平成10年辺り以降の爆発的な養成学校急増で、医師の同意無く保険診療が行える事もあり柔道整復師数は増えました。

【詳細はこちらの柔整サイトさんがまとまっています→「柔塾」さん][柔道整復師専門学校の規制緩和について確認する]



東洋医学系、特に健康保険を用いた業界は斜陽と言われ、保険診療に軸足を置いていた業者の方々は、実費での自由診療に民族大移動を行っています。あマ指はまだ介護マッサージの部門があるので危機感はゆるいですが、鍼灸、柔道整復の方々は新たな(これまでと違う)治療法を学ぶ方が多く、中でも人気なのは矢張り「整体」「カイロプラクティック」です。



その様な昨今に今年春、消費者庁から国家資格(あマ指・鍼灸・柔整)以外の手技療法に注意との公表がされました。
以下、参考に。

"法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に消費者庁 ※PDF

"これだけは知っておいて 【第31回:法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に】” 柔整ホットニュースより


空前の「癒やし・ほぐし」ブームに「整体・カイロ」ブームが到来、定着してきています。しかし世間一般の認識と、我々手技療法業界の認識は大きく乖離しています。その事は我々が1番痛感している事です。大手カイロ団体は下記の様な声明をサイトで直ぐ公表しています。


「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」に対する当会の見解および対応” JAC 一般社団法人 日本カイロプラクターズ協会


JACも指摘されている通り、この通達は「穴」が多く、一緒くたに「国家資格の有無」だけで注意喚起して良いものなのか疑問があります。国家資格の形骸化と低レベル化、野放しの現場を知る人ならば当然「う〜ん、分かるけど乱暴」と感じる今回の消費者庁通知です。極端な話を分かりやすく挙げれば・・・

「あそこの指圧治療院に10回通ったけど改善みられないから隣町の整体に行ったら1〜2回で症状が改善した」

「向かいの整骨院に1回数百円で電気とマッサージ受けて半年だけど全く良くならないから知人の紹介のカイロに電車に乗って治療受けに行ったら、その1回で辛さが半減した。治療費が1度の治療で8千円だったが納得出来る」

「鍼の先生に頭痛と肩こりの症状の外、小顔にも美容にも良いと通院を勧められ、5回ほど治療を受けたが効果無く、たまたま行ってる美容院でヘッドスパを受けたら頭痛も少し楽になり、顔色も良くなったのを実感した」

「そもそも1回の治療費6千円のあん摩・マッサージ・指圧の看板よりも、2980ほぐしの方が、気持ちが良いし上手」


当然、この逆もしかりですが、一般の利用者、患者側からすれば
「医業の国家資格」
「医業類似行為の無資格」
と、何十年も我々の業界で論争になっている事など、どうでも良い訳です。
それが明確化したのが今日です。


日本の手技療法が何故、国家資格の「指圧」と、民間資格の「療術・カイロプラクティック」に分断され、それに起因した問題が60年以上続いているかは、ここの駄文広報ブログでも大昔からダラダラ愚痴って書いてある通りです。何度か書いていますが・・・
現状の様な、身体に関する「医療」なのか「デタラメ」なのか、業態、名称の大混乱が戦後あり、それをキチンと区別し、医業は医業、それ以外は猶予を持たせるから業を止めなさい。としたのが「指圧法制化」だったんです。


当時、様々な手技療法を「指圧」と名称を統一し、今後、医業として発達させていきなさいとスタートさせた当時の定義が、


「指圧は古法あん摩、導引、柔術の活法に整体療法を合わせ、圧を主体とした独特の施術である」


「指圧はあん摩、導引、(柔術の)活法、を総合した経験療法として、江戸時代には民間で行われて来たが、明治時代に入り、これらの手技操作を共通するアメリカの整体術、カイロプラクティック(Chiropractic)、オステオパシー(Osteopathy)、スポンディロセラピー(Spondyrotherapy)などの療術が輸入されるにおよび、この施術を導引に取り入れ、改良して独自の手技療法として体系化し、大正時代 に指圧法として統合され、昭和30年8月にあん摩(マッサージ、指圧を含む)として法律で認められ、次いで昭和39年6月に名称が改正され、あん摩、マッサージ、指圧師として現在に至っている。」――― あん摩マッサージ指圧理論より


と、ある様に、あやゆる手技療法を統合し、医学的に発展させようと当時の荒削りな「志」も感じられます。
しかし、それがすっかり志も無くし、定義も当時のままどころか「指圧は拇指でツボ押し」となって、上記の内包していたあらゆる手技療法はバラバラに細分化、指圧養成学校で「古法按摩」「導引」「柔術活法」「整体」「療術」「カイロ」「オステオパシー」「スポンディロセラピー」を個別に、意味も含めて学べる学校など無いに等しくなってしまいました。


併せて考えなければならないのが、定義され形骸化した国家資格も問題でありますが、整体やカイロも名称と技術はバラバラのメチャクチャです。先に参考として出したJACの様にカイロ団体として一定の知識、技術を保証したりするところもありますが、多くは言った者勝ち、やった者勝ちです。自称が当たり前に通用するのが手技療法業界です。あなたも今からカイロプラクターですし、オステオパスで、整体セミナーを明日、公民館で開催できます。
とだけ書いておくとバランスが悪いので更に付け加えると、あマ指の国家資格を有する者にも経験や知識が乏しいにも関わらず、指圧の発展を理由としない、個人の営利目的とした一般人相手の指圧治療教室(セミナー)を行う人間も少なくありません。
(こう言った、云わば内々の恥を明文化するっていうのも複雑な心境であるのですが)


ザッと過去からをまとめましたが、国家資格で定める手技療法があいまいな為に、整体、カイロの看板は今後も増え続けていくでしょう。そして、何かしら大きな社会問題となった時に、資格と定義を改める事になるのでしょう。60年前の指圧法制化のドタバタと、どさくさを愚かしく繰り返す、当時の志ある治療師の方々が現状を知ればどれ程に嘆くことでしょうかね。


※指圧法制化に反対して今日まである指圧以外の手技療法団体もキチンとまだあります。

財団法人全国療術研究財団
http://www.ryojutsu.or.jp/

全国療術師協会
http://www.ryojutsu.or.jp/zenryoukyou.html

一般社団法人 身体均整師会
http://www.kinsei.ne.jp/index.html





指圧治療も保険診療が出来ればね。。。とは、我々も患者さん側も昭和の頃から日常会話で出ていました。あマ指資格は国家資格の医療資格であるので当然治療を目的とした施術は健康保険が適用されるのですが、保険が適用される患者さん側の症状、医師の同意書が必要、1治療部位の保険点数金額などと、健康保険を用いた治療を行うには個人(一治療院)として少々難しい仕組みとなっています。現状では訪問マッサージの現場にこの保険の仕組みは軸を移している形ですね。
実際問題、医師の同意書が必要という時点で昭和の頃から病院のリハビリテーション以外の場で、あマ指の治療が保険適用で施術されていた話はほとんど聞きませんでした。


で、昨今。
マッサージや整体がこれほどまでに日本中に氾濫してきますと、これまで曖昧模糊としていた部分がいろいろと浮かび上がって、我々だけでなく利用する側である患者さんにも「???」と疑問が湧いているのを日々実感します。


あマ指や鍼灸接骨院の柔整、これらの医療資格は、戦後から今日まで曖昧な医療資格であった事に変わりはありません。現代医療に対してカウンターと言うよりは、その下位、隙間である病院に行く程でないがツラい身体の諸症状に対する、「準」医療資格と言いましょうか、メインを張れないポジションと言いましょうか。。。この原因も実は我々側にあって、技術と理論の統一どころか、業界としても大きくまとまった事が法制化以降一度もなく、慰安に堕したあん摩・マッサージ。一人一流派の無定義指圧。と内外から揶揄される事に他なりません。


ただ!
ただ、何十年もその様な現状に嘆くだけで何ら行動しなかった訳ではありません。あん摩・マッサージ・指圧、鍼と灸、柔道整復師。(プラスで国家資格でない、一部のカイロや療術の古参組織も含め)真面目な治療師、団体はそれぞれの思惑で「良くしよう!良くなろう!日本の手技療法は医療レベルでも十分な技術だ!」と頑張って(は)居た、居るのです。


が、
ただ!!
世の中の市場原理主義と良いのでしょうか?規制緩和と自由化と言うのでしょうか?
国家資格の有無が実質無意味になっている件。
整骨院接骨院や、介護マッサージでの後を絶たない不正な保険診療
ルール無用となり、技術や価値は崩壊しているのが現状です。
手技療法は結局のところ実費による自由診療でしか業を行えなくなってます。


以下は参考までに日本における手技療法の保険診療や、治療内容の解釈の資料です。


H28年度柔道整復、鍼灸マ料金改定がほぼ決定!0.28%” 全国柔整鍼灸協同組合


あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の改定について(案))※PDF

はり、きゅう及びあん摩・マッサージの施術に係る療養費の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について)※PDF


自分の様に自由診療で行っている人間には正直、上のお金の話はピンときません。保険も自由もどちらも大変だな、楽な治療は無いなと。
一箇所数百円、一回に請求できる治療部位は2点まで(仮定)、従業員やパートを使って患者さんの症状からして何回、何十回通ってもらい、手を使って、電気使って、治療効果を云々、物販も含めて・・・う〜ん。
2,30年前と違い、詳細な金額や手続きがオープンな現代では昔よりも一層の経営センスが必要なのでしょう。「うまみ」も今や皆無(と昨日聞く)と、治療も慰安も含めた手技療法界は、済し崩しに数年で大きな変化が見られるのは間違いなさそうです。


そう。日指会は60年前に今日の様な状態を経験しています。


今、過去から学べる事は
「患者が10倍に増える!治療院経営セミナー」
(但し講師は異業種やよく分からない経営コンサル)
「患者が喜ぶ!儲かる最新治療テクニックセミナー(もしくは学校、教室)」
(但し講師は臨床経験3〜5年。よく分からない整体、カイロ団体卒や所属)
といったDMやサイトや勧誘に惑わされる事のない様に。
60年前の会報にこうあります。
「嘘、でたらめ等を吹聴してまわる輩、団体がいるが惑わされぬ様。地に足付けて何が正しいのか考えろ」と。


個人で開業する時代は過ぎましたし、必ず会に属する時代でもありませんが、臨床に携わる治療師は、治療技術と知識を磨いて学んで、これを止める事無く「しか」出来ません。



去年の研修会で出たキーワード「活殺自在」
小川先生の特別講義で圧のかけ方の実技で、合気挙げや自身の身体を持ち挙げ難くする身体法を学んだ際、指圧に内包する柔術活法とは、いわゆる合気柔術で、身体を壊す術を裏返すと活かす術となる、それを表す言葉で活殺自在と古い言葉もあって――と、研修会で話していました。小川先生の何万回四股とか、力で押すと壊れ、変形する指圧師の指も、正しい押圧は指も壊さないし、例え今の何倍もの患者さんに押圧しても疲労しないと、面白可笑しく冗談交じりでの研修会でしたが、武術と指圧の関係の話の際に「あの先生は合気柔術の佐川先生のところに見学に行ってたり、否、あの先生の感じじゃ学んではいないな(笑)」とかありましたが、そうだそうだと思い出しのたのでこちらに追記でメモしておきます。


極真空手創始者大山倍達という昭和の巨人がいました。その大山倍達先生の著書「強くなれ!わが肉体改造論」という本がありまして、夢とロマン溢れる良い本で、その本の130頁

そのなかに大山倍達先生は、操体法橋本敬三先生の著書「身体の設計にミスはない」を、たまたま拝読し我が意を得たと記しています。

武術と手技療法は以前、もう少し近い感じでしたが今では細分化し過ぎて今では距離がある感じですね(一般論として)
あの拳で語るイメージの大山倍達!が操体法やツボ、経絡に言及しているなんて意外に感じる若い方も多いんじゃないでしょうかね。


今も昔も身体に関する事に関しては垣根無く「活殺自在」。改めて治療の幅を考え直すのに、このキーワードを再考してはいかがでしょう?昔まとめた日指会本でも紹介しましたが、チン・ゲンピンと柔術と整復術などは現代医学に埋もれがちだけど目を通しておくべき歴史であると思います。今日では「武術整体」などとの言葉を見かける頻度も増えましたがどうでしょうか。日本手技療法の歴史、ちょっと興味が湧いてきませんか?




※個別に質問された件
「あマ指資格は取る価値あるか」
若い人たちは手技療法界の経緯も分かりませんし、これ程に技術や学校、民間資格が乱立、ネット情報氾濫ともなりますと、ごもっともな質問ですね。ここ(はてな)の昔の記事にも「こんなにも形骸化したあマ指資格を得る意義は?」とあります。


私個人としての今現在の考えとしまして。上記の日指会の歴史から考えますと「何かしら効果を期待して業を行う」のであれば、国家資格である「あマ指」があれば、治療、介護、スポーツ、慰安、美容等々に何ら不安無く仕事として行う事が出来ますから、指圧資格が法制化された理由を鑑みますと「取るべき」と考えます。療術(整体)など、民間資格は時代時代でその価値が指圧以上にあやふやな為に無意味ですし、理論と技術は指圧に内包されています。端的に言えば、行う事が同じもしくは似たものであれば、名称がどうあれ国家資格が有効の一択と言う事です。特に地方知事認可資格から国家資格に統一されて以降は、基礎医学を一定の学力で担保されている国家資格として、患者さん側の安心を得る事も出来ます。
(p.s. 蛇足ですが、平成の初めには療術とカイロが頑張って、形骸化した国家資格あマ指のカウンターとして、良い所まで活動されたのですが…)





それではまた。時間のある時に。
(偉そう)



日本指圧師会

郄木剛太




*日指会のメインサイトは引っ越ししました。

 新しいアドレスはこちら→ https://nihonshiatsushikai.jimdo.com/