日指会の友 【36】

すべての治療法に共通するものは何か


 1 絶対に効かないという治療法はない
 2 絶対に効くという治療法もない
 3 各治療法は互いにつじつまが合わない
 4 草創期の新興治療法はよく効く
 5 信念だけでも治ることがある
 6 以上の結論を包括する統一変数は治療に対する信仰心である


  アンドルー・ワイル著 「人はなぜ治るのか」より

 

代替療法のトリック」
(原題:Trick or Treatment?)
サイモン・シン & エツァート・エルンスト 著
(Simon Singh & Edzard Ernst)
青木薫訳  新潮社版


 「代替療法のトリック」であん摩でもマッサージでもなく「指圧」を取り上げているので紹介と簡単な感想、そして大事な訂正をしたいと思います。

 ホメオパシー」「鍼」「カイロプラクティック」「ハーブ療法」の4つを主に、代替療法と云う大きな括りを「最新科学的評価」の基に取り上げ、「効く」のか?そしてそれは「どうなのか」を斬ります。
 細かい書評などはアチラコチラで書かれていると思いますので、そちらにお任せしたいと思いますが、個人的に治療師である私が読んでも知らなかった興味深い内容も多く、知的好奇心を刺激される面白い本でした。遠慮なく科学的にズバズバと評価して行く様は、世界中の「治療師」にとっては(悪く雑に云えば)悪口を叩かれているのに、面白くアッと云う間に読み進めてしまうのは、ベストセラーである著者の、文章や構成の上手さでしょう。「治療師」の看板を掲げる方にはお勧めしたい、そして様々な代替療法を用いる「患者」側である方々にも面白い本と紹介出来ます。

 現代医療で用いる、最新科学に基づいた投薬や医師の治療と比べ、代替療法は同じ土俵で評価するとどうであろう?世界的に莫大経済効果を生んでいる、多くの代替療法はどうであろう?―――科学的根拠も(猛烈に)乏しく、「プラセボ効果」(偽薬効果)以上のデータが得られない、曖昧であやふや、時には重大な病気の初期を見誤らせてしまうかも知れないもの。
効果効能を大声でうたい、そこに多額のビジネスとしている以上、現代社会に適した効果の臨床データを出して下さいと著者は云います。これは確かに私達治療師の看板を挙げている者としては唸りますね。

 日本ではあん摩・マッサージ・指圧に関して税金も投入され、国に認められた組織による研究が行われてきましたが、臨床データの件などはこの本の様に突っ込まれると、まだまだ不足分がある事なんだろうと考えます。
私個人としましては、これまで代替療法と云うものに、ここまで陽の光を世界的に当てられた事も珍しい事ですし、内容に賛否があるでしょうが、保守的で内向的な私達らの業界に、客観的な意見の杭が打ち込まれたこの本の事は喜ばしいと考えます。

 さてさて、褒めてばかりいてはいけませんね(笑)
 先に書きました通り、この「代替療法のトリック」には「指圧」として、小さくですが紹介されています。そしてその指圧の項目に誤った記述がありますので訂正をしておきます。これは世界的ベストセラーの本ですからね、誰かが正しく訂正して公開しておかねばなりません。

 著者らは何を根拠にし、何を資料として「指圧」の項目を書いたのか、参考文献が記されていない為、分からないのですが指圧に関して書かれている事の大半が「間違っている」のです。
 小さな間違いなら良いのですが、「指圧とはこう云うもの」「指圧創始者」と云った大事な部分が間違っているのは致命的です。
「指圧創始者浪越徳治郎で母のリウマチ治療で指圧効果を見出した」と書かれているのですが、これは間違っても日本国内のあマ指養成学校で指圧を学ぶ際に「指圧創始者浪越徳治郎である」等とは教わる事はありません。「指圧は誰が創ったか」は指圧養成学校では学びません。それは明確に指圧を「誰が創った」と簡素に説明出来ないからです。指圧の前身「療術」からの歴史的背景、法的定義の働きかけをした日本指圧師会を始めとする法制化に邁進し、歴史に埋没した多くの団体や治療師の歴史。指圧とは2〜3行の文章で簡単に説明出来る時代背景ではなく、とても複雑な経緯を持っています。(私は浪越徳治郎先生に恨みもへったくれもありませんし、正しい指圧の歴史を中立的、客観的に紹介しているだけです)
 著者らは何から「指圧=浪越」と得たのでしょう?公にされている指圧に関する資料で、指圧=浪越と書かれているものは、浪越徳治郎先生、浪越徹先生、浪越満子先生らの著書に見られる以外、ウィキペディアにそう書かれているだけで、指圧養成学校で用いられる教科書や、その他多くの指圧に関する本や資料に「指圧は浪越徳治郎が創りました」とは書かれていません。日本の指圧師は指圧師になる過程で国家資格である為、国に認めれた養成学校に学びますが、一個人によって創始された手技術技であるとは「絶対に」教わる事はありません。絶対です。
まさかウィキペディアを参考資料として書かれてはいないでしょうが、念の為、ウィキペディア日本語版には「指圧は浪越徳治郎が〜」と書かれている為、英文のウィキペディアも確認してみましたら、英語版でも「指圧は浪越徳治郎が〜」と記されていた為(2010 4月現在)、少し心配になりました。ウィキペディアは参考にしていませんよね?サイモン・シン先生。。。

 「指圧とは鍼とマッサージを日本流に統合したものと見る事が出来る」と、本の中では説明されていますが、これも大きな間違いでしょう。指圧の内包する理論・術技の幅広さから今回は詳しく書けませんが、以前ココにて書かせて頂いた通り、指圧定義とはマッサージと鍼の発展形と捉えるよりも、あん摩や柔術からの活法、カイロやオステオパシーと云った骨格や関節、腱辺りへのアプローチを多く含みますので、「○○から日本流に統合」と考えますと、○○に含まれるものが幅広く、より難解になってしまうでしょう。鍼からと云った様に、東洋医学的経絡・経穴を用いる指圧としましては、(こちらではさんざ名前を使わせて頂いて恐縮なんですが)故・増永静人先生の経絡を用いた指圧法が有名です。が、指圧は経絡径穴を必ずしも用いなければならない訳でもなく、増永先生の指圧は浪越先生の指圧とも違い、ただそれはどちらも「指圧」であると云う事です。もちろん日本指圧師会で研鑽してきた事も「指圧」なのです。
「指圧」の持つ曖昧さと意味合いの深さは、流石に外国人の科学ジャーナリストには理解が難しい事だったかも知れませんね。第一、指圧の効果をマッサージと比較し述べていますが、その対比したマッサージがどの様なマッサージなのかも明確でない分、説得力はゼロに等しいもので残念です(見開き1ページでは仕方がないのでしょうが、批判をするからにはある程度の専門性も含むべきでしょう)。

 そうそう!忘れてはならない指圧の項目最後の行に、治療中に加えられる強い圧のせいで打撲、骨折、頭、首への「指圧マッサージ(?!)」による大脳、網膜の塞栓症の報告があると書かれていますが、正直この最後の行は読者に多少なりのショックを与える為だけの蛇足ではないでしょうか?この程度(一般の方からすれば高確率で起こるものと捉えられますからね)の副作用、事故例を批判するのであれば、「最新現代医学」の副作用と事故例も科学的データや統計を用い、指圧と比較対照しなくてはイケマセン。よって私は最後の一行を「蛇足の悪口」と解釈しました。

 賛否書かせて頂きましたが、大変刺激になる良い本でした。お勧めします!



【追記】
 近頃、TVやマスコミで取り上げられた、関連項目もメモしておきます。加味して参考にされるとよろしいでしょう。以前の様ないい加減な情報のみでなく、キチンとした取り上げられ方、社会問題化への注目など、「おお」とか「うぅ」とか唸る取材も多く好感が持てます。

○ 追跡!A to Z「“ガンに効く”?代替療法最前線」
再放送やNHKオンデマンドを利用すれば見る事が出来るでしょう。

○ 厚生労働省は2月5日、統合医療の今後の取り組み方策などを検討する「統合医療プロジェクトチー ム」の初会合を開いた。プロジェクトチームでは、多種多様な分類の医療の取り組みの現状を把握するため、厚労省の関係部局に対し調査を実施する。(http://news.cabrain.net/article/newsId/26246.html
【関連記事】
統合医療 でPT設置の意向 長妻厚労相
一般用医薬品販売が劇的に変化 2009年重大ニュース(6)「改正薬事法
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医師の約8割、漢方薬の保険対象 外に「反対」
先発品の薬価引き下げ幅は明示せず 事業仕分け

 同プロジェクトチームは、足立信也厚生労働政務官を主査、阿曽沼慎司医政局長を副主査に、省内の課長などで構成 される。

 統合医療については、「多種多様であり、科学的根拠が乏しいものも少なくないとの指摘もある」とした上で、「統合医療の施術者 の資格化のためには、日本の医療の基本である西洋医学との役割分担、それらの有効性・安全性等について明らかにすることが必要」と指摘。同プロジェクト チームでは、現状の把握と今後の取り組む方策を検討するとしている。

 初会合で足立政務官は、「目の前にあることから一つずつエビデンスを積み上げていくことが何よりも大事だ」とあいさつ。また、同省における取り組みの現状を把握するため、26日を期限に、受け付けた要望書や予算措置、研究実績などを、省内を対象に調査を実施することを決めた。

○ 漢方・鍼灸エビデンス確立などを提言−厚労省研究班
2月25日19時49分配信 医療介護CBニュース(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100225-00000006-cbn-soci

記者会見で提言について説明する班長黒岩祐治氏(左)と、研究員で慶大医学部漢方医学センター長・准教授の渡辺賢治氏(2月25日、厚労省内)
 2009年度厚生労働科学特別研究事業の「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のための調査研究」研究班(班長=黒岩祐治・国際医療福祉大大学院教授) は2月25日、漢方・鍼灸医学のデータを収集・分析し、科学的なエビデンスを確立することなどを盛り込んだ提言書を長妻昭厚労相あてに提出した。

 提言では、(1)体質に合った「オーダーメイド医療」実現のための基盤整備(2)生薬資源の安定的確保(3)国際ルール作りへの迅速・積極的な対応 (4)国民への知識普及(5)施策推進のための組織的整備-の必要性を指摘している。
 (1)では、必要な対応として「科学的分析の推進(データの収集と解析)」と「人材の育成」を挙げた。
 「科学的分析の推進」では、漢方・鍼灸医学の基礎・臨床でのデータを早期に蓄積し、EBM(エビデンスに基づく医療)への転換を図るとの方向性を提示。 具体的には、▽データ収集の仕組みを構築する▽データマイニングなどの手法による分析で、これまでの経験則を裏付けるような科学的エビデンスを確立する▽ 生薬と漢方製剤の品質を標準化する-ことなどが必要とした。
 また、「人材の育成」については、漢方・鍼灸に精通した専門家の層を厚くするため、医師の国家試験に漢方を含めることなどを提案。医師だけでなく、薬剤 師や鍼灸師の研修の充実化などにも言及した。
 最後に(5)では、提言の内容を施策として推進していくためには組織的整備が必要として、厚労省の「統合医療プロジェクトチーム」の議論を進め、専任の 担当部署をつくるよう求めた。また、政府に対しては、関係省庁を横断する組織的枠組みを早急につくるべきとしている。

 黒岩氏は同日の記者会見で、漢方・鍼灸に関するデータは活用されずに「眠っている」との認識を示し、「データを掘り起こして整理していくことが必要」と 強調した。
 また、「一人ひとりの体質、体調に合わせた医療をすることは、西洋医学にも活用できるアイデア」と指摘し、漢方にかかわる医療のあり方を西洋医学に適用 することは、効率的な医療を実現する上で「非常に大きな意味がある」と述べた。

○ <厚労省>「漢方」「はり」治療データ蓄積、人材育成を提言
2月25日21時15分配信 毎日新聞
 漢方や鍼灸(しんきゅう)の今後のあり方について、厚生労働省の研究班(班長黒岩祐治・国際医療福祉大教授)が提言をまとめ25日、長妻昭厚労相に提 出した。治療効果のデータ収集や人材育成、原料の国内栽培の推進などを提案している。

 個別化医療を実現するために、患者の症状や診断、治療結果を収集・蓄積しデータベース化を進めることを提案。また、漢方薬については、現在は8割以上を 中国からの輸入に頼っている生薬原料を、25年までに自給率を50%に高めることを目標とする▽休耕地や植物工場を活用した生薬原料の栽培▽漢方の正しい 知識の普及−−などを提言した。鍼灸については、研修の充実で鍼灸師の専門性を高めることを盛り込んだ。

 漢方や鍼灸などの伝統医療は、中国や韓国の主導で国際的なルールづくりの動きが出ている。提言では、日本も専任の担当部署をつくり、政府主導で対応する ことも求めた。

 渡辺賢治・慶応大漢方医学センター長は「中国や韓国は国際会議に国の担当者が来ているのに対して、日本は学会レベルで対応しており限界がある」と話して いる。

 漢方をめぐっては昨年の政府の事業仕分けで、漢方薬がうがい薬などと共に保険診療から外す案が出るなど、専門医の間には危機意識が強い。【下桐実雅子】